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前橋地方裁判所 昭和33年(わ)406号 判決

被告人 岸敏子

大一三・一〇・三一生 旅館経営者

主文

被告人を懲役壱年および罰金四万円に処する。

ただしこの裁判が確定する日から参年間右の懲役刑の執行を猶予する。

被告人が右の罰金を完納出来ない場合は金千円を一日の割合に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三十三年六月三日頃から前橋市菅町六十八番地において「むらさき」旅館を経営しているものであるが、同年八月十九日頃から同年十二月四日頃迄の間前后十五回に亘り別紙一覧表記載の通り千島恵子外三名の女性がそれぞれ不特定の客である同表記載の男客を相手方として売春するに際しその事情を承知しながら右の各男客等から一回二百円乃至六百円の部屋代を徴して同旅館の客室を各貸与し、もつて売春を行う場所を提供することを業としたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は売春防止法第十一条第二項、罰金等臨時措置法第二条に該当する一罪であるからその所定の刑期および罰金額の範囲で被告人を懲役一年および罰金四万円に処する。ただし、諸設の情状により刑法第二十五条第一項を適用し、この裁判が確定する日から三年間右の懲役刑はその執行を猶予する。なお刑法第十八条によつて被告人が右の罰金を完納出来ない場合には金千円を一日の割合に換算した期間右の被告人を労役場に留置する。訴訟費用の負担については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文によつて全部被告人の負担とする。

(量刑について)

本件の科刑について検察官は懲役一年および罰金二万円を相当と思料する旨述べたのであるが本件各証拠を綜合考察するに被告人は前橋市内にて旧制小学校高等科二年を終え更に同市々立家政女学校を卒え、戦時中は小学校代用教員をなし終戦直前渡満し戦后飲食店を経営する父親の許に帰郷し、その手伝をなす裡に同業者と結婚したるも一子を伴い離婚し、父親の援助等により本件旅館を経営月収約十五万円乃至二十万円女中三名使用するに至つたものであるが判示本件犯行に及んだのは判示各女性ならびに得意客等よりの勧奨ありたるによる点が尠なくないのではないかと考えられるのみならず破婚の挙句女手に子供を抱えて生活しているところから功を焦るの余り営利の念やみ難きものがあつたのではないかとも思料せられるのではあるが本件犯行の態様およびその前後の情況より見るに本件有罪の認定をなした前示犯行以外にも当時類似の所為をなしをりたるものと思料せられる証拠が存在している。よつてこれら諸般の情況と情状とを勘案し売春防止法の立法趣旨に徴して判示の如くその刑を量定する。

以上によつて主文の様に判決する。

(裁判官 藤本孝夫)

一覧表

月 日

売春者氏名等

客室番号

相手客氏名

部屋代金額(円)

(1)

八月十九日頃

酒場女給

千島恵子

十番

中神巌

六百

(2)

八月二十二日頃

右同女

六番

常見一郎

五百

(3)

八月下旬

飲食店女中

中島二三代

一番

石川勝太郎

二百

(4)

同右

同右

二番

右同人

二百

(5)

同右

置屋富本方芸妓桃子こと新井才子

八番

古井某

六百

(6)

九月上旬

中島二三代

一番

平野某

六百

(7)

九月中旬

千島恵子

六番

磯田某

六百

(8)

九月中旬

右同女

六番

右同人

六百

(9)

九月二十五日頃

右同女

十番

中神巌

六百

(10)

十月四日頃

千島恵子

十番

常見一郎

五百

(11)

十月中旬

中島二三代

十番

石川勝太郎

六百

(12)

十一月上旬

右同女

三番

岡田正稲

六百

(13)

十一月八日頃

千島恵子

七番

常見一郎

五百

(14)

十一月十二日頃

飲屋女中

根岸敏江

六番

常見一郎

五百

(15)

十二月四日頃

千島恵子

六番

古沢和夫

未払

以上合計十五回部屋代合計金七千二百円也

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